2016年5月5日木曜日

熊本地震-2  2016.4.19

本震発生後、数日たってようやく発生研HPに掲載したmessageです。

発生研内外の皆様へ (2016.4.19)


熊本大学発生医学研究所は4/14の地震で大きな被害を受けました。しかしその後4/16未明に発生した本震は想像を絶するもので、電気、水、ガスのライフラインが断たれました。私自身も車内や避難所で夜を明かしました。メールへの返信やHPの更新もままならず、皆様にご心配をおかけしております。山中伸弥先生、近藤寿人先生、上野直人先生、濱田博司先生をはじめとする多くの先生方におかれましては、多大なご支援ありがとうございます。

現在熊本市には電気と水が戻りつつあります。幸い、研究関係者には人的被害はほぼ出ていません。人が最大の宝であり、それが無事であることに感謝しています。

発生研周囲の地面は波打ち、外壁タイルが剥がれ、内外壁には大きなひびがいくつも入っています。窓が歪み、漏水も起こりました。これらを見た時はショックでしたが、検査の結果、建物自体の倒壊の可能性は非常に低いだろうということで、安堵しています。余震による落下物のため、原則立ち入り禁止としていますが、中に入って復旧作業を再開しています。復旧には1年以上の時間と莫大な費用を要するでしょう。ですが、修復しながらでも、研究を再開することができます。

また、質量分析器、次世代シークエンサー、FACS、顕微鏡などの多くの機器が落下・転倒しています。余震の可能性があるため、これらは来週になってから元に戻し固定します。その上で専門の業者に機能を確認してもらうつもりです。そもそも空路も陸路も遮断されているので、業者が熊本入りするのは来週だろうと思います。これらの機器の修理費あるいは買い替えとなると、これまた大きな費用がかかります。発生研は全国共同研究拠点でもあり、全国の研究者を受け入れて、これらの充実した機器と熟練の研究支援者達からなるコアファシリティー「発生研リエゾンラボ研究推進施設」で支援してきました。これが近年の発生研自体の躍進の基盤にもなっており、一刻も早く復旧したいと願っています。

度重なる地震によって、発生研の水やガスは止まったものの、奇跡的に電気は安定して維持されました。フリーザー内のサンプル、つまり長年蓄積されてきた研究の財産は、失われることなく保たれています。

発生研に隣接する日本有数のマウス施設(生命資源研究・支援センター:管轄は発生研とは別組織です)は、電気、水、ガスともに保たれ、マウスは無事に生きています。また凍結胚も地下の液体窒素タンクに保存されており、損傷していません。これらもまた日本のサイエンスの財産であり、それが保たれたことにほっとしています。もちろんこちらの建物も発生研同様に破損しており、長期的修復が必要なことは言うまでもありません。

これらの状況は、あと一発の大きな余震によって大きく変わる可能性があることは念頭に置かねばなりませんが、私としては5月の連休明けには研究を再開したいと考えています。それまでに余震がおさまり、広域避難させた学生たちが戻ってくることを願っています。住居がひどく損傷した学生への長期的経済的支援は必須です。特に留学生は行き場がなく、自費で帰国するケースが相次いでおり、対策を急いでいるところです。やることは限りなくありますが、全力を尽くす所存です。今後ともご支援のほどよろしくお願いいたします。

熊本大学 発生医学研究所 所長
西中村 隆一

April 19th, 2016

Dear all IMEG members and supporters,


The building of the Institute of Molecular Embryology and Genetics (IMEG) at Kumamoto University was severely damaged by the big earthquake on April 14th, 2016. On the early morning of April 16th, another earthquake even bigger than the first, brought devastating damage to our institute.  There was no electricity, water, or gas in the entire city. Many people, including myself, evacuated to emergency shelters or stayed in cars that night, and some continue to do so. I apologize for the delay in my response to all e-mail and in the update of the institute’s homepage. I would like to take this opportunity to express my sincere appreciation to all researchers, including Drs. Shinya Yamanaka, Hisato Kondo, Naoto Ueno, and Hiroshi Hamada, for your earnest support.

Currently, the supply of electricity and water is slowly recovering all over Kumamoto City. I am very relieved to report that no one at our institute, including graduate students, was severely injured. 

The grounds surrounding the building have become rippled, multiple tiles were ripped off the exterior walls, and many cracks have developed in the wake of the earthquakes. I was shocked at first, but the foundation of the building turned out to be well maintained, and the building is unlikely to collapse. In order to avoid injuries from falling objects, general entry to the building is prohibited. Staff members, however, are already in the building working hard toward the recovery of the institute. Although it will take more than a year for the entire recovery, we are confident that we will be able to resume our research activities soon. 

Much of the equipment, including the mass spectrometer, the next-generation sequencer, the FACS, and the microscopes, has fallen onto the floor. We will wait until next week to return them, securely, to their original positions because of the intermittent aftershocks that have been occurring this week. We will then ask suppliers to confirm the performance of each piece of equipment. This delay is partly because the suppliers will not be able to come to Kumamoto until next week. Many of the highways are closed, the bullet trains (Shinkansen) are not working yet, and airplanes have only just started landing today at Kumamoto Airport since the initial earthquake. Because IMEG is one of the members of the MEXT program for Joint Usage/Research Center, many researchers from all over the county have used our facility and received professional support at the core facility, the “Liaison Laboratory Research Promotion Center (LILA)”. This facility has also contributed greatly to our own research activities. Therefore, we are trying to restore all the equipment as early as possible, although the cost may be high.  

Miraculously, despite the tremendous damage, electricity to the building has been stable. This means the samples in the freezers are safe. In other words, we are still maintaining research resources that have been accumulated through our long-time efforts.

We were also fortunate to have the supply of electricity, water, and gas remain constant for the Center for Animal Resources and Development (CARD), which is one of the top level mouse facilities in Japan. The mice in this building are alive and safe. The cryopreserved embryos that are stored in the liquid nitrogen tanks in the basement are also unharmed. I am relieved because these mice are also important resources for the scientific community. However, this building is also damaged and it will require a long time to recover.

The current situation I have explained here might change if another severe earthquake hits us.  However, I hope we will be able to resume our research activities on May 9th. I hope that the aftershocks are reduced and the students who have evacuated to their hometown can return to Kumamoto. Many foreign students evacuated to their home countries at their own expense. I am currently considering methods of economic support to help return them to their research and study activities here at the institute. Right now, there are many difficulties we need to face, but we will devote all our energy to rebuilding our research infrastructure. I very much appreciate your continuous support.

Ryuichi Nishinakamura
Director, IMEG

熊本地震−1 2016.4.15

前震の翌日に発生研HPに掲載したものです。この時はさらに大きい本震が来るとは予想もしていませんでした。
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昨夜4/14  21:00過ぎ、熊本で震度7の大きな地震が発生しました。経験したことのないものすごい揺れ方で、研究室の机の下でしばらく凌いだ後、外に避難しました。昨夜から本日にかけて100回を越す余震が続いており、不安な一夜を過ごしました。今のところ発生研関係者にけが人は確認されておらず、火事・停電・断水も発生せず、不幸中の幸いというところです。しかしFACS、質量分析器、顕微鏡、ワークステーション、CO2 インキュベーター、といった高額機器に大きな被害が出ており、特に高層階の被害が甚大です。

発生研の皆様、まずはご自分とご家族の安全を最優先ください。発生研の復旧の際には、原状の写真を撮っておいてください。くれぐれも安全第一で、無理をなされないようにお願いします。2次火災を防ぐために、安全が確認されるまでガスは使用しないでください。また余計な電源は切ってください。特にこの1週間内は大きな余震の可能性があります。落下したものを戻す際には、転落防止策を講じてください。

全国の皆様、ご心配のメールをいただきありがとうございます。個別にお返事できないかもしませんが、ご理解いただけるとありがたいです。幸い、皆無事で、気力も充実しており、全力で復旧作業を進めているところです。サイエンスの遅れを最小限にとどめて、熊本から世界に発信を続けていく所存です。ご支援のほどよろしくお願いいたします。

2016年4月15日
熊本大学発生医学研究所 所長
西中村 隆一

Be smart. Stay foolish. 2016.4.14


地震直前に発生研HPに掲載した所長就任挨拶です。

熊本大学発生医学研究所は、2000年に改組した発生医学研究センターを基盤としており、学内外で「発生研」という呼称が定着しています。本研究所には、遡れば1939 年の体質医学研究所を原点にして、遺伝医学遺伝発生医学、そして発生医学につながる70年以上の歴史があります。そして数々の研究の成果はもとより、多くの優れた研究者を国内外に輩出してきた、若手研究者にとって登竜門的存在の研究所です。

私達の身体を構成する多種類の細胞がどのように増殖し分化して、組織や器官を形作っていくのか。この仕組みを明らかにし、病気の解明や治療、組織・器官の再構築へと進めるのが「発生医学」です。再生医療は、発生のメカニズムを用いて、必要な細胞や臓器を作製することになります。発生学の視点をもとにヒトの健康を増進し、また将来を担う次世代を育成することで、学問と社会に貢献するのが発生研の役割です。

本研究所は3つの部門から構成されており、「発生制御部門」では、発生機構および疾患発症の防御機構を分子・細胞の観点から解明することを、「幹細胞部門」では、ES細胞・iPS細胞・組織幹細胞の制御機構から再生医学を展開することを、「器官構築部門」では、個体の器官・臓器発生を制御する基本原理を解明することを目的としています。さらに、2012年に附属「臓器再建研究センター」を設置し、将来の医療のために臓器を創る基礎研究と臨床への橋渡しを目指しています。

また2010年には文部科学省「発生医学分野の共同利用・共同研究拠点」に認定され、研究者コミュニティーと社会のニーズを踏まえた共同研究を広く支援しています。特に充実した共通機器と熟練の技術支援者からなるコアファシリティ「リエゾンラボ研究推進施設」は、研究所全体が一つのラボとして機能するという類をみない支援システムであり、近年の発生研躍進の基盤となるとともに、国内外の共同研究支援にも大きく貢献しています。

さらに、発生研が中心的に推進してきた21世紀COEプログラム「細胞系譜制御研究教育ユニットの構築」(2002-2006年)、グローバルCOEプログラム「細胞系譜制御研究の国際的人材育成ユニット」(2007-2011年)は、博士課程教育リーディングプログラム「グローカルな健康生命科学パイオニア養成プログラム HIGO」(2012年—)に結実し、理系の枠を超えた部局間連携で、深い専門性と幅広い視野をもった人材の育成を推進しています。

発生学的視点から生命科学と医学の融合を目指す発生医学研究所は、独自の立ち位置を築いており、これからも熊本から世界に向けてサイエンスを発信していきます。そのためには独創的な発想をもとに、他に真似のできない成果を挙げていく必要があります。旧制五高(熊本大学の前身)で学んだ物理学者寺田寅彦は、「科学者になるにはあたまがよくなくてはいけない。しかし一方であたまが悪くなくてはいけない」と書き残しています。経験を積み知識が増えるにつれて予想や絞り込みがうまくなるものです。しかしそれでも自分の想像を超える可能性を常に想定して、愚直にそれを試すことが、誰も見たことのない世界への入り口です。熊本に立地し流行に左右されないこともそれを後押しします。そして発生研に集う不均一な個人・研究室が発火しあって、必然と偶然によって、全く新しいサイエンスが生み出されることを期待しています。

そしてもう一つ、自分の出世や研究者としての生存のためにサイエンスを手段として使わないでいただきたい。私たちは基本的に自分の興味に基づいて研究をしますが、最終的には人類の知の発展のために貢献しています。サイエンスは目的であって手段ではない。常に素晴らしい結果がでなくてもよいです。正直な結果をもとに誠実にサイエンスを進めてください。あなたが一生かけて解きたいことは何ですか?それに向かって愚直にまっすぐに進んでください。そして何よりも、自分ではなくサイエンスを愛してください。寺田寅彦は言っています。「科学者になるには自然を恋人としなければならない。自然はやはりその恋人にのみ真心を打ち明けるものである。」

2016年4月


Be smart. Stay foolish.

The Institute of Molecular Embryology and Genetics (IMEG) was founded in 1992, and extensively reorganized in 2000 and again in 2009. It is one of the first institutes in Japan that succeeded in generating transgenic and knockout mice. As a prestigious institute located in the southern Japanese city of Kumamoto, we attract many developmental biologists from around the world.

We aim to merge developmental biology with medicine. We believe that a deep understanding of developmental biology is crucial for regenerative medicine. Regenerative medicine is not alchemy. We should reveal the molecular mechanisms underlying the development of various cells, tissues, and organisms, and utilizes the accumulated knowledge to recapitulate the in vivo processes. Working toward this goal, our institute has three divisions (Developmental Regulation, Stem Cell Research, and Organogenesis), and our research interests include chromosome and protein regulation, epigenetics, DNA repair, ES and iPS cells, cell fate specification, cellular communications, hematopoiesis, brain morphogenesis, gametogenesis, and kidney development. To support cutting-edge science, we have a well-organized core facility with numerous shared machines and equipment maintained by a talented support team. This has served as the basis for our achievements in recent years, as well as for the education and growth of our young scientists.

We continue contributing new scientific discoveries from Kumamoto to the global research community by obtaining unique findings based on our own creative ideas. The famous Japanese scientist Torahiko Terada, who studied in Kumamoto more than 100 years ago, said: “You should be smart to be a scientist. However, you should be foolish to be a scientist.” When you are more experienced and gain more knowledge, you will be better at predicting outcomes. However, nature often stays out of your imagination and testing the possibilities that are outside of the range of your expectations could lead you to new discoveries. Additionally, interaction with other scientists at our institute will help to enhance the novelty of your research.

It goes without saying that curiosity drives science, but it is our opinion that you should not use science as a tool. Science is not something we use to simply survive or even to be famous. Science is our goal. As scientists, we contribute to the total accumulation of scientific wisdom for all of humankind but if you perform misconduct, you interfere with the progress of human beings. It is not necessary to obtain fancy results at all times. Instead, you should pursue correct and honest results. When you face a difficult problem, you should choose the way that would contribute to the betterment of mankind even if you do not personally benefit. In other words, love science more than yourself. “To be a scientist, you should love nature as you would your true lover because nature only tells her secrets to her lovers.” -Dr. Terada

Apr 14, 2016
Ryuichi Nishinakamura, M.D., Ph.D. 
Director, IMEG, Kumamoto University







2014年12月16日火曜日

研究不正を考える

先日、分子生物学会において池上彰さんと学会員との討論会が行われました。池上さんは非常に頭の回転が早く、ユーモアがあって、さすがだなと思いました。その中で、心に残ったことがあります。正確ではありませんが「不正の責任が論文の責任著者にあるのは間違いない。しかし税金を使って研究をしそれで社会の中で組織を形成しているからには、組織及びその長が管理責任を問われるのは社会の常識ではないか」という趣旨で、尤もだと思いました。もしかしたら、研究者ってお子ちゃまですね と言いたかったのかもしれません。

我々研究者は、科学の進展に追いつくのには熱心ですが、倫理の進歩やその教育についてはそうでなかったのではないでしょうか。また世代間でコピペ等への感覚が大きく異なることを、指導者の世代はあまり認識していません。大学院生、ポスドクがここまで増えた現状では、倫理の言語化•システム作りが必要でしょう。そしてそれは単なるノウハウの伝授ではなく、未知の状況でも自分で判断でき、生涯にわたって高い倫理規範を維持できるように、自分は何のために研究をするのかを根源から問うものでなければなりません。研究は一人でやるのが基本なので、バカ正直といってもよいほど極めて高い倫理感が求められます。そのためにCITIなどのe-learningに加えて、やはりPIが折に触れて自分の哲学を語ることが大切でしょう。私は、「科学は、自分の生存や出世のための手段ではなく、目的なのだ」と言っていますが、以下のような話も学生にしています:研究不正の話は自分と無関係と思っているかもしれないが、将来こういう場面に直面したらどうするか?revisionでdataを一つだけ削除すれば有意な差がでて、論文がいい雑誌に受かり自分も生き残れる。しかし論文が通らなければ職を失い研究をやめなければならない。それでも真実を通せる人になってほしい。そもそもそういう状況に追い込まれたこと自体が自分の実力不足だと悟るべき。 「自分ではなく、サイエンスを愛してください。」


2014年4月23日水曜日

あなたのcentral questionは何ですか?

国際科学技術財団は日本国際賞を主催していますが、同時に若手研究者(35才以下)への研究助成も行っています。今回は、私が選考委員長を務めました。私自身は力不足でしたが、委員の先生方のご支援により、素晴らしい10名の若手を選ぶことができ、2014.4.22に贈呈式が行われました。以下は、私が若い方々に送ったお祝いの言葉です。


 「生命科学」の分野で研究助成の選考をさせていただきました西中村です。今回、研究助成に採択された皆様に、選考委員を代表して、講評とお祝いを述べさせていただきます。



 「生命科学」は大変幅広い領域ですが、次年度に「医学•薬学」の募集がある状況を踏まえ、本年度はできるだけ基礎的な研究を選ぶ方針としました。それでも研究領域は広範囲に及ぶため、選考委員はMD, PhDのバランスを考慮し、扱う動物種もハエからヒトまで、幅広い専門分野の方々にお願いしました。すべての委員がすべての申請資料を事前評価したのち、東京に集まって合議を行いました。但し平均点だけで一律に評価することはせず、申請一件ずつに対して皆で意見を出し合うことによって、ご本人の実力による独創的な研究を拾い上げる努力をしました。その結果、優れた論文をお持ちでも選に漏れた方も大勢おられます。皆様は、数多くの応募の中から私たち委員がこれはと信じて選んだ方々です。どうか自信をもって研究に邁進ください。



 昨今、生命科学領域では研究不正の報道が相次いでいますが、これはひとごとではありません。この機会に、皆様も何のために自分がサイエンスをするのかを考えていただきたい。私たちは基本的に自分の興味に基づいて研究をしますが、最終的には人類の知の発展のために貢献しています。ここで不正をすればその発展を阻害してしまいます。もっと平たくいうと、世のため人のために正しいことをやりましょう。決して自分の出世や研究者としての生存のためにサイエンスを手段として使わないでいただきたい。サイエンスは目的であって手段ではない。常に素晴らしい結果がでなくてもよいです。正直な結果をもとに誠実にサイエンスを進めてください。あなたのcentral questionは何ですか?あなたが一生かけて解きたいことは何ですか?それに向かって愚直にまっすぐに進んでください。そして何よりも、自分ではなくサイエンスを愛してください。



寺田寅彦は言っています。

「科学者になるには自然を恋人としなければならない。自然はやはりその恋人にのみ真心を打ち明けるものである」



 皆様の研究が大きく発展されることを心から願っております。本日は誠におめでとうございます。



                   選考委員長  西中村 隆一

                (2014422日 2014 年研究助成金贈呈式にて)

付記: central questionというフレーズは鍋島陽一先生がよく使われるのですが、これを是非伝えたくて無断借用させていただきました。この場を借りてお詫びします。

2013年12月14日土曜日

3次元腎臓組織の試験管内作成に成功しました

2013.12.12 (日本時間12.13) Cell Stem Cellに論文を発表しました。概略は発生研HPのNew Pressをご覧ください。簡単にいうと、マウスESとヒトiPSから糸球体と尿細管からなる3次元の腎臓構造を試験管内で作成したということです。私はこれを達成するために研究者の道に進んだので感無量です。カエルでは試験管内で腎臓(前腎)がアクチビンとレチノイン酸で作れることを20年前に浅島誠先生が発表しました。これを哺乳類で実現して腎不全の患者さんを助けたいと思い、1996年大学院卒業が確定した2月に、浅島先生と共同研究を始めました。とは言っても当時は、腎臓を作れるわけがない、腎臓発生研究はscienceなのですか、などと批判され、参加する学会もなく、砂漠を歩くような日々の連続でした。それでもカエルとマウスを使ってSall1など新たな遺伝子をみつけることによって (2001年)少しずつ腎臓発生のメカニズムを明らかにしていきました。そして2006年、Sall1を発現する細胞群がネフロンの前駆細胞であることを提唱しました。他のグループによっても証明され、糸球体や尿細管をつくるSall1/Six2陽性のネフロン前駆細胞が存在することが確立しました。
ではこのネフロン前駆細胞を作るにはどうしたらよいか?Sall1の上流にあって、ネフロン前駆細胞の起源と思われていた中間中胚葉に発現するOsr1のGFPノックインマウスを2007年に作成し、さらに遡ろうとしましたが難航していました。そこに太口君が大学院生として入ってきました(2009年)。彼にこのテーマを託したものの、最初の数年はやはりうまくいかず、ラボ内にはこんな不確実な実験を継続することに批判もありました。しかし太口君の実験は結構いい線をついていると感じていて、やりたいようにやってもらいました。ネフロン前駆細胞ができる1日前 のOsr1陽性の細胞から誘導できる条件をみつけたのが最初の成功でした。しかし、さらに1日前 からの誘導がどうしてもうまくいかない。ここまでかと思い始めた頃、Osr1陰性の方からうまくいくことがあると太口君が言ってきました。ネフロン前駆細胞の起源は実は中間中胚葉ではないのではないか?Osr1陰性の部分には下半身を作る体軸幹細胞が含まれています。ではこの細胞をラベルしたら本当に腎臓になるのかを確認したい。それができる遺伝子改変マウス(T-GFPCreER) はどこにいるのか?同じ研究所の佐々木教授に尋ねてみたところ偶然彼が作ってもっていました。それもマウス棟の同じ階にいた!これを直ちにいただいて太口君が試したところ、確かにT陽性の細胞がネフロン前駆細胞の起源であることがわかりました。そこでこの細胞からネフロン前駆細胞を試験管内で誘導できる条件を探しました。ここも太口君の健闘で、発生機序に沿った条件が確定し、2012.3 ついにネフロン前駆細胞が誘導できました。つまりT陽性の体軸幹細胞様細胞が途中でOsr1陽性に変わり、さらにネフロン前駆細胞ができるわけだったのです。これが大きなbreakthroughでした。
ここまでできれば、理論的にはES細胞からT陽性細胞を経由してネフロン前駆細胞ができるはずです。太口君は結構自信ありげでしたが、経験を積んでいる私はそれがそう簡単ではないことを知っています。実際彼は相当苦心しましたが、2012.9.7にESから作ったネフロン前駆細胞から糸球体と尿細管ができていることがわかりました。これを顕微鏡で確認したときには、私はさすがに感極まってしまいました。自分が一生かけても達成できないかもしれないと思っていた夢が現実になった瞬間でした。涙ぐんで彼に何度も「ありがとう」と繰り返しました。
ここで論文を投稿したのですが、世の中は甘くない。ヒトでもやらないと駄目ということでした。マウスでできたからといってヒトですぐできるわけではありません。もしかしたらまた数年かかるかもしれない。とはいえこれを見越して、大学院生のSazia と賀来君とで、ヒトiPSの培養系は一通り立ち上がっていました。太口君にもiPS細胞培養法を伝授し、同じプロトコールを試してもらったところ、わずか2ヶ月ほどでヒトでも糸球体と尿細管の誘導条件を決定してくれました。腎臓の発生過程はマウスとヒトとで驚くほど似ていたわけです。
今回の太口君の快挙の秘訣は、発生機序を十分に理解して論理的に条件を設定した上で、それでも予測範囲外のことまで試したことだと思います。Osr1陽性だけではなく捨てるはずの陰性細胞を試したこと。普通使う試薬濃度の10倍を試してそれが正解だったこと。知識と経験を積むにつれて絞り込み方がうまくなるものですが、それでも自分の考えを越える可能性を愚直に試す努力を怠らないこと。「研究者は頭がよくなくてはならない。と同時に頭が悪くなくてはならない」と寺田寅彦が言ったといわれますが、このことを指しているのでしょう。
今回の成果は私が20年間追い求めていたものです。患者さん達の人生を背負って生きてきたつもりなので、本当に感無量です。しかし現時点では大きさも成熟度もまだまだです。それには、もう一つの腎臓構成要素である尿管芽をつくって、ネフロン前駆細胞と組み合わせ、本当の3次元の腎臓を作らねばなりません。さらにそこに血管を通して尿を作らせ、機能を持たせる必要があります。これにはまだまだ長い時間がかかるでしょうが、試験管内での腎臓作成という私の夢は、夢物語ではなく達成可能な「目標」になったのだと思っています。一日でも早くこの「目標」を達成したいものです。患者さんは一日千秋の思いでその日を待っています。みんなありがとう!そしてこれからも頑張りましょう。


2013年9月11日水曜日

You do best what you like best

2001. 9.11 私はLos Angeles 近郊のAMGEN本社を訪問することになっていました。当時所属していた東大医科研AMGEN寄附講座の延長を交渉するため、研究所でのセミナーと副社長(研究開発担当)との面会が予定されていました。しかし、朝ホテルで起きてくると、ロビーのテレビの前に人だかりができている。World Trade Center collapsedのheadlineを理解するのに相当時間がかかりました。LAはNYと3時間時差があるので、LAの早朝にはそういう状況でした。全機着陸が指示されたものの行方不明の飛行機があり、その中にはLAに向かっているはずのものも数機あって、LAにも突っ込んでくるのではないか、といった話がホテル客の間で流れました。AMGENも日本の寄附講座延長交渉どころではなく、すべての予定はキャンセルされました(副社長は少しだけ会ってくれましたが)。AMGEN社員もテロにあった飛行機に乗っていたそうです。
 航空系統がすべて止まったため、同行してくれていた新井医科研所長と日本AMGENの吉田社長(いずれも当時)とともに、LAに足止めを食らいました。戦争が始まるのではないかといった噂も流れ、そうすると妊娠中の妻が待つ日本には半年−1年くらい帰れないかもしれないとも思いました。毎日日本への航空機に予約を入れるのですが飛ぶわけもなく、何日も過ぎました。ようやく日本からANAが一機LAに向かったという情報が妻から入りましたが、LA空港の情報は錯綜しており、最初は否定されました。それでも確認すると、どうやら飛ぶらしいということになって、LAから日本に向かう最初のANA機に乗れることになりました。しかし空港は恐ろしいほどの厳戒態勢で、首尾よく乗れてもまたハイジャックされてしまうかもしれない。これほど飛行機に乗るのに緊張したことはありません。
 しばらくしてAMGENは寄附講座の閉鎖を決定しましたが、私をAMGENの研究所に雇ってもよいということで、再びAMGEN本社へ行ってセミナーをし、多くの研究者と面会しました。確かにアメリカの製薬企業の環境は素晴らしく、資金も豊富で、すごいことができそうでした。しかしAMGENは私に腎臓ではなく骨をやってほしいとのことでした。ここまでやってきた腎臓発生をやめるのか。。。迷いながら正直に話をした副社長(前述とは別人。臨床開発担当)が言った言葉が "You  do best what you like best. "(自分が最もうまくやれるのは自分が最も好きなことだ)。ああそうだな、自分は腎臓が好きだ。どんなにきつくても、お金がなくても、一人であっても、腎臓を続けよう、と思いました。AMGENへの就職は丁重にお断りして、腎臓研究を続けられる場所を懸命に探しました。幸い熊大発生研に研究室をもつことができました。2001年のテロから12年。あの時腎臓発生研究をやめなくて本当に良かったと思います。多くの人が巣立ち、これからも育ちます。彼らが出す成果は腎臓再生に向けて大きく貢献するでしょう。私もまだまだ頑張ります。