2026年8月18日火曜日

熊本地震 2026 (2026.7.28)

この度の地震により被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。 皆様の安全と一日も早い復興を心よりお祈り致します。

 いつかは地震がまた来るかもとは思っていましたが、3度目の震度7は予想していませんでした。発生研も壮絶に大きく長く揺れました。体感としては10年前の前震と同じくらい。これは震源から多少距離があるためと考えられます(前回は直近、今回は約20km)。

2016年4月14日: M6.5 (前震) (発生研は震度5強)

2016年4月16日: M7.3   (本震。前震の28時間後) (発生研は震度6強)

2026年7月28日: M7.1   (発生研は震度5強)
(Mが0.2増えるとエネルギーが2倍になります。1.0増えると32倍、2.0増えると1000倍)
 
「固定」
10年前の教訓から、研究室も自宅もほとんどの機器や家具をきっちり固定してあったため、被害は最小限です。前回はスライドグラスが自分のすぐそばに多数落下して割れたのですが、落ちないようにキャビネットを導入してあったのでこれも大丈夫でした。10年前に地震の専門家を発生研にお呼びして講演していただいたときに、地震の予知は不可能であることを伺いました。では一体何ができるのかと聞いた際に返ってきた答えが「固定」でした。そのため所を挙げて機器の固定法を考案し、実行してきました。それが奏功したということです。但し研究所高層階の被害は完全には防ぎ入れず、自分たちの固定法が十分でなかった可能性があり、今後検討します。5階以上にあるラボが震度5以上の地震を経験することは日本のどこでも起こり得るので。https://www.imeg.kumamoto-u.ac.jp/kotei2016oct/

「遠隔避難」
ラボメンバーの何名かは自宅や実家の被害や停電・断水で苦労しました。私自身は10年前は、避難所、車中泊、自宅の屋根の修理、研究所の復旧工事と一通り経験しましたが、今回は事なきを得ました。10年前は28時間後に本震が来たのですが、今回の余震は増減はありつつも減衰傾向にあると感じています。とはいえ割れ残りの断層があり、まだまだ油断できない状況であるのは確かです。また余震が続くと安心して眠れませんし、不安感は人によってまちまちです。不安の強い人には「遠隔避難」を勧め、県外の実家にしばらく帰ってもらったところ、元気になって戻ってきてくれました。被災地を離れられない理由がないのであれば一時的な「遠隔避難」は極めて有効です。

「速やかに建物外に避難して戻らないこと」
爆発したイオンモールはいつも行っているところで、驚きました。震度5以上の地震の際には火の元を含む周囲の安全を確保したら速やかに建物外に避難する(ぐずぐずしているともっと強い地震が来るかも)、その際に最低限の身の回りのものを持つことで「建物内に戻る必要がないようにする」、のが鉄則だと再認識しました。10年前、繰り返す余震の中で荷物を取りに戻るのがとても怖かったことをラボのメンバーには伝えてきたのですが、研究所全体に徹底すべきと思いました。自然災害では最悪の事態を想定してリスクを減らしていくしかないです。







2026年7月23日木曜日

国際先導Los Angelesシンポジウム:International Leading Research Symposium in LA (2026.7.13)

国際先導研究の一環としてLos AngelesのUniversity of Southern Californiaを訪問し、腎臓に関するシンポジウムを開催しました。その閉会の挨拶です。

https://creating-kidney.jp/retreat202607/

https://creating-kidney.jp/en/retreat202607/

This meeting was a great success. We would like to express our deepest gratitude to Dr. Nils Lindstrom, Dr. Zhongwei Li, Connor Fasuto, Megan Schreiber, and the many other USC staff members who worked tirelessly to make this symposium possible.

I am confident that today's meeting will promote interaction between USC and the Japanese team. Unfortunately, travel expenses have increased significantly, so we could not bring more students. Nevertheless, this meeting will encourage international collaboration and inspire young postdoctoral candidates in Japan to join USC.

Today, we enjoyed excellent science. I would also like to encourage young researchers to think outside the box. Thirty years ago at my wedding, a guest gave a speech saying that the bridegroom had a ridiculous dream of making a kidney in vitro. At the time, it sounded like a joke, but it's actually becoming a reality. Since then, human embryonic stem (ES) cells and induced pluripotent stem (iPS) cells have been established, the Wnt family of genes has been identified, and kidney organoids have been generated.

So, don't judge limitations based solely on current techniques. As you make progress, scientists in other fields will too, and their work may converge in the future.

What do you want to achieve in your life? Follow your dreams earnestly, even if they seem foolish.  Then you can make your dreams come true.

Let's keep in touch, and I hope to see you again soon, perhaps in Kyoto next March.

2026年4月14日火曜日

熊本地震から10年(2026.4.14)Ten years since the Kumamoto Earthquake

研究所全員に向けて送ったメールを掲載しておきます。

発生研の皆様

本日 、熊本地震の発生 (2016.4.14) から10年を迎えました。この地震によって尊い命を落とされた278名の方々に対し、心よりご冥福をお祈り申し上げます。

発生研にも、ご自宅が全壊・損壊された方々、怪我を負われた方々がおられました。大変な経験を乗り越えてここまで歩んでこられた皆様に深く敬意を表します。また地震発生後2年にわたる研究所の復旧に際しては、所員の皆様をはじめ、学内外の多くの方々からご支援いただきました。研究活動を再開して今日まで継続できていることは皆様のご尽力の賜物です。改めて感謝いたします。

現在の科学では地震の発生を予測することはできません。ご自宅の家具や研究室の機器が確実に固定されているか、もう一度ご確認ください。こうした備えは物的被害を防ぐだけでなく、ご自身の命を守ることにもつながります。

また、命を守るには水が不可欠です。10年前の地震では電気、水道、ガスが止まった上に、道路、鉄道、空港のすべてが大きな被害を受けて外部からの救援が約3日間途絶えました。私自身も水を確保できず途方に暮れたことを今でも鮮明に覚えています。非常時に備え、一人あたり1日3リットルx 3日分=計9リットルの飲料水を常備しておくことをお勧めします。参考:  https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/foodstock/imadoki/imadoki02_10.html

この節目の日を災害への備えを見直す機会としていただければ幸いです。



Dear all IMEG members,

Today marks ten years since the Kumamoto Earthquake (Apr 14, 2016). I would like to pray for the 278 people who lost their lives in this disaster.

At our institute as well, there were members whose homes were completely or partially destroyed, and others who sustained injuries. I would like to express my profound respect to all of you who have endured such hardship and persevered to reach this day. Furthermore, during the two years required to restore the institute following the earthquake, we received tremendous support and cooperation from our staff and from many individuals both inside and outside the university. Thanks to your efforts, we were able to resume and continue our research activities. I would like to take this opportunity to express my sincere gratitude to you all.

Even with modern science, it is impossible to predict earthquakes. Please ensure that furniture in your homes and equipment in your laboratories are properly secured. Such measures not only protect property, but also help safeguard your own lives.

In addition, securing water is vital for sustaining life. Ten years ago, during the earthquake, not only were electricity, water and gas cut off, but roads, railways and airports were also severely damaged, preventing outside relief from reaching Kumamoto City for about three days. I strongly encourage everyone to prepare for emergencies by keeping three liters of drinking water per person per day for three days, for a total of nine liters.

I hope we can take this opportunity to renew our commitment to disaster preparedness.

2026年4月1日水曜日

谷川俊祐さん 祝 教授栄転 2026.4.1

発生研腎臓発生分野講師の谷川俊祐さんが、4.1付で山口大学細胞デザイン医科学研究所の教授として転出されました。おめでとうございます! 去る3.16に開催された転出セミナーの際の私の祝辞の一部を掲載します。


谷川さんと初めて会ったのは2011年2月、彼がアメリカ留学中に鹿児島に一時帰省しているときでした。家族思いの好青年で、アメリカでしっかり成果を出して私のラボに採用されるくらいに成長したいと言ってくれました。 私もこの人がうちのラボに来てくれたらよいなあと思いました。しかし彼を雇用するための予算を持っていませんでした。それからしばらくして新しい大学院プログラムの公募がありました。それに熊大発生研として応募して全国の厳しい競争を勝ち抜き、運よく採択されたら特任助教を公募し、そこに谷川さんに応募してもらってこれまた競争を勝ち抜いてもらう、というかなり確率の低い三段階のプランを考えました。これが実現したのがHIGO programであり、谷川さんは2年後に特任助教として熊大に着任して、企業 internshipの引率をしっかりやって、メンターとして他のラボの学生を指導し、多くの学生から慕われました。その後、助教、講師と順調に昇進し、さらに教授として栄転されることは、とてもめでたく、嬉しいことです。新天地での一層のご活躍を祈念しています。
I first met Shunsuke around 15 years ago, when he was back in Kagoshima for a short visit while studying in the US. He was a kindhearted young person who cared deeply for his family. I hoped he would succeed in the US and join my lab later. This was one of the reasons why I started the HIGO program.

谷川さんはとても優しく誠実で、細かい気配りができ、お願いしたことは喜んでやってくれる。私はこんな好人物に出会ったことがありません。実験においても、多くの可能性の中から真実を掘り当てていく嗅覚とそれを支える膨大な仕事量は卓越しています。私のラボがうまくいったのは谷川さんのおかげです。谷川さんと一緒にやれて、とても幸せな13年間でした。本当にありがとうございます。
私は彼の優しさと才能を信じ続けてきました。私は谷川さんに「独立へのルートは一本道ではなく、多様な道筋がある。あなたは私心なく人を助けることができる、それによって人から助けられる。それが谷川さんの最大の長所だ、それを活かして戦え、せっかくの長所を捨てるな」と言い続けました。そして谷川さんは、多くの論文を出し、多くの研究費を獲得して、教授として独立することができました。自分のことを一番に考える従来のPIとは違って、人を助けて人に助けられる新しいタイプのPIが誕生したのだと思っています。山口大学は彼の最大の長所を評価してくれたわけで、彼の独立を心から祝福します。
Shunsuke is incredibly kind and sincere. He is always happy to help others. I’ve never met such a wonderful person. In the experiments, his ability to uncover the truth from numerous possibilities, based on tremendous hard work, is truly exceptional.
I kept telling him, “The path to independence is not a single, straight road. There are many different routes. You have the ability to selflessly help others, and in doing so, you’ll receive help in return. That is your greatest strength. Use it to your advantage. Don’t throw away such a valuable asset.” Shunsuke then published numerous papers, secured substantial research funding, and finally established himself as a professor. Congratulations!
谷川さん、本当におめでとう!

転出セミナーのURL https://www.imeg.kumamoto-u.ac.jp/seminar555/ 


2026年3月30日月曜日

桜峰小学校 閉校 2026.3.31

 私が通った鹿児島県・桜島の桜峰小学校が2026.3.31で閉校します。私が住んでいた頃の桜島は農業も観光も栄えており、西桜島村が桜島町になった1973年には全島挙げてお祝いしました。ほぼ毎日噴火する火山の麓で駆け回って遊んだ、私の故郷です。桜峰小学校も当時は360名と大勢いたのですが、過疎化が進み、ついに桜島全島の小中学校が閉校して、一つに合併されます(桜島学校)。寂しい限りです。

去る2.14に閉校記念式典が開催されたので、急遽思い立って参加してきました。私が児童会長として卒業記念に植えたクロガネモチが5mを越す大木になっていました。卒業以来50年ぶりに校舎に入って懐かしい教室を見た後、式典で皆さんと一緒に校歌を歌いました。「雲に聳ゆる桜島、高きを己が心とし、、」。閉校してもそのスピリットと思い出は一生心に残り続けます。

思えば、ここが私の原点でした。あの時から長い時間をかけて、医者になり、研究者になり、腎臓を作り、とここまできました。自分はここから始まった、我ながらよく頑張った、でももっとやるぞ、と思いを新たにしました。

さらば桜峰小学校!






2025年4月17日木曜日

日中笹川医学奨学金認定式 挨拶 2025.4.16

 Yuhao Wangさんが第46期日中笹川医学奨学金の対象者に選ばれ、その認定式に出席しました(ポスドクは全国で7名)。その時の挨拶です。


Yuhao Wangさん、そして皆様
本日はおめでとうございます。あなたにとってこの2年間はとても貴重です。是非有意義な時間を過ごしてください。
私の研究室では複雑な構造を持つヒト腎臓を試験管内で作れるようになってきました。しかしまだ尿を流せていません。そこで、Yuhao Wang さんには、尿管を作り、それと腎臓を繋ぎ、さらに移植してホストの膀胱と繋いで、尿が流れる機能的な腎臓を作ってもらいたいと思っています。もちろんこれは挑戦的なプロジェクトであり、簡単にできることではありません。それに向けて一歩ずつ着実に進めば良いです。私と一緒に試行錯誤しましょう。
この2年間に限らず人生において、焦ったり迷ったりすることもあるでしょう。その時は私たちは患者さんのため、あるいは人類のためにサイエンスをやっていることを思い出してください。迷ったときは、サイエンスのためにベストなことは何かで判断してください。サイエンスを自分の出世や生き残るために決して使わないでいただきたい。サイエンスより自分のことを優先していないか、よく考えてください。
最後にもう一つ。ちょうど9年前の今日、熊本地震の本震が起き、私たちの研究所は大きな被害を受けました。今頃の時間(16:00)は立ち入り禁止にした建物に所長として一人残って、対策を必死に考えながら多くの指示のメールを出していました。その時に実感したのは、刻一刻変わっていく状況を研究所全員に伝えるのが難しかったことです。さらに情報のほとんどが日本語で、留学生に届くのに時間がかかりました。そこで私たちの研究所では、すべての所員(教員、ポスドク、技術職員、事務職員, 学生まで全員)がすべての所員にメールできる体制を作っており、かつ日本語と英語を併用するようにしています。日本では地震が頻繁に起きますので、皆さんのところでもそうされるのをお勧めします。
それでは改めて採択おめでとうございます。充実した研究生活をお送りください。

熊本地震から9年 2025.4.14

発生研全員に送ったメールです。

皆様 

 

2016.4.14の熊本地震から9年になります。
この機会に地震・火事に対するマニュアルを復習し、機器の固定をお願いします。

 

非常時にあなたが発生研の建物内にいた場合、あなたに全てがかかっています。初期消火、救護、消防/救急への連絡、館内放送での退去呼びかけ、などの対応をお願いします。 そして、このアドレス     を使って全員に(建物外にいるメンバーにも)状況を知らせてください。
このアドレスは、熊本地震の際に刻一刻と変わっていく状況を迅速に共有できなかった反省から作られたもので、発生研の方は誰でも全員に向けて発信できます(センター事務にも届きます)。あなたのアドレスも登録されていますので、平時にも気軽にご利用ください(発生研セミナーのお知らせにも使われています)。それが非常時に生きます。

しかしこのアドレスは、熊大黒髪キャンパスのサーバーが損傷や停電で停止すると全く使えません。その場合には研究支援会議のメンバー間で連絡を取れるようにしてあります(アクセス権はメンバー限定)。ラボ内はLine, Slack, Googleなど熊大のサーバーに頼らない連絡方法があると思いますので、研究支援会議のメンバーに連絡して、ラボ及び全所で情報を共有ください。

 

熊本地震直後の状況は下記から。

 

 西中村

 

---------------------------------
Dear all,

 

It has been nine years since the Kumamoto Earthquakes in 2016. 

 

Always be prepared for earthquakes and/or fires. Please read the manuals in the following URL. 

 

If you are in the IMEG building at the time of an emergency, you should take care of everything, including initial fire fighting, rescue of the injured, emergency calls, and evacuation announcement for the remaining members in the building. Also mail to this address, so that you can share the information with all the IMEG members.
This mail address was created because we could not share the ever-changing situation when Kumamoto earthquakes occurred. You can send your message to all IMEG members (including the administration office). So please feel free to use it even in normal times (it will be useful in emergencies).

However, this address will not work if the server at the Kurokami campus of Kumamoto University is damaged or stopped due to a power failure. In such a case, we will share information through the members of the Research Support Committee (access rights limited to members only). Please contact the committee members to share information with other members in the lab and institute, as you should have communication methods in the labs such as Line, Slack, Google, etc. that do not rely on the Kumamoto University server.

 

Please see below to learn the situation just after the earthquakes.

Ryuichi Nishinakamura

2024年9月8日日曜日

浅島誠先生 傘寿の祝賀会 2024.9.7

 浅島誠先生の傘寿の祝賀会が東大駒場で開催されました。久しぶりに浅島先生や懐かしい面々と会えて楽しい時間を過ごしました。その会での祝辞です。

浅島先生、傘寿おめでとうございます。
私が先生と共同研究を始めたのは、1996年に大学院を卒業して東大医科研の助教になった直後なので、もう28年もお世話になっております。腎臓を作りたいと言って勝手に押しかけてアニマルキャップを集め、Sall1を見つけてKOマウスを作り、さらにヒト腎臓オルガノイドを作ってきました。私がここまでやってこれたのは浅島先生のおかげです。改めて深く感謝いたします。
私は浅島先生を発生学会の長嶋茂雄と密かに呼んでいます。なんと言っても明るく励ましてくれる。カエルどんどん使ってください としか言わず、細かい批判や指摘はしない。いい意味で大雑把。どんなデータにも本気で興奮してくれて、すぐに"Natureに出してみるだか"。自分がイマイチと思うデータでも先生にそう言ってもらうと、最終的な結果がどうあれ元気が出ますよね。
それに、多くの学生さんを送っていただきました。大学院を卒業したばかりで、かつ浅島研に所属もしていない私に優秀な学生をどんどん送ってくれる。後から振り返ると、私を支援してくれていたわけなのですが、そういったことは決しておっしゃらない。むしろ頭を下げて、 "もしもならば"指導してもらえないか、と頼んでくださる。お人柄ですよね。
「思ったより一人多く入学しちゃったので引き受けてもらえないか?」
「修士の入学試験に落ちてしまった学生がいる。来年は必ず受かるから、それまで教えてくれないか(気に入ったらそれ以降も)」
「マウスを勉強したがっているが、自分はカエルしか教えられないから是非西中村さんに頼みたい」
そうやって頼んでお願いする形を取りながら、私をサポートして下さったわけです。佐藤さん、長船さん、高里さんなど、今から思うとすごいメンバーでした。
それに当時の浅島研も若かった。福井さんが助教、有泉さんがいて、高橋君と横田さんが大学院生の最年長。その下に岡林さん、二宮さん、玉井さん、黒田さん、作本さん。魚地さんと早田さんはまだ修士でしたね。皆さん立派になられて素晴らしいです。
結局カエルを始めてから18年かけてヒト腎臓オルガノイド作成に成功したわけですが、そのときに浅島先生から電話をいただきました。”私はアクチビンを見つけるのに18年かかった。西中村さんも18年かけて腎臓が作れてよかったね。18年かかったのが良い”と言ってもらえました。浅島先生に少し近づけたような気がして、すごく嬉しかったです。
あれから既に10年が過ぎて、世の中のオルガノイド研究は物凄い勢いで進んでおり、長船さんも高里さんも頑張っています。私も、誰も見たことのない景色をさらに見つけていきたいと思っています。ほんの少しずつですが毎日細胞培養もしているし、たまにはマウスに注射も打ちます。
浅島先生もいつまでもお元気でご活躍ください。本日は誠におめでとうございます。


2022年7月27日水曜日

桜島の噴火

今回のニュース(噴火による避難指示:レベル5)は思わず長いこと見てました。

桜島は私の故郷で、小学校卒業まで住んでいました。今回避難対象になっている南東部とは反対側です。桜島の北西側は観光やフェリー、農産物(みかんや桜島大根など)で収益を上げている豊かな村でした(溶岩が多い南東側は1950年に鹿児島市に編入されていたが、こちらは独立を保っていた)。夏休みは毎日、家から5分の海で泳いでいたし、ハネムーン客も大勢泳ぎに来ていました。好調な財政を反映してか、小中学校の校舎も立派でした。私が10才の時に西桜島村から桜島町に昇格、町中でお祝いしました(新しいフェリーも就航)。

噴火はほぼ毎日で慣れっこでしたが、農産物が全滅して村内運動会が中止になったことも。大正3年の大噴火の記念日 (1月12日) には全島脱出を想定した避難訓練が毎年ありました。当時は大噴火の経験者が存命で、噴火しないという測候所の予測を信じて避難しなかった人が犠牲になったという話を聞いた記憶があります。

桜島町は2004年ついに鹿児島市に編入。私が通った当時360名いた小学校も今では20名ほどの複式学級だそうです。でも頑張っている様子がHPから伝わってきて、心の中で応援しています。

2022年3月2日水曜日

私の苦労話 Part 4: 完全にES細胞由来の腎臓高次構造を構築 (2022.2.1)

 2022.2.1にNat Communに論文を発表し、その裏話を発生研HPに掲載しました。

http://www.imeg.kumamoto-u.ac.jp/bunya_top/kidney_development/#1

遅くなりましたが、その転載です。

西中村教授の苦労話 Part 4: 完全にES細胞由来の腎臓高次構造を構築 (2022.2.1)

 

 2022年2月1日 Nature Communications誌に論文を発表しました。腎臓はネフロン前駆細胞、尿管芽、間質前駆細胞という3つの前駆細胞から形成されます。私たちは2014年にネフロン前駆細胞の、2017年に尿管芽の誘導法を報告してきました が、今回は最後のピースである間質前駆細胞を誘導したという論文です。2017年の論文では、間質前駆細胞が誘導できていなかったのでマウス胎仔由来の間質前駆細胞で代用していました。今回は、それをマウスES細胞から誘導する方法を開発し、同じくES細胞から誘導した残り二つの前駆細胞(ネフロン前駆細胞及び尿管芽)と組み合わせることで、ES細胞のみから、多数に分岐した尿管芽の周囲にネフロンが配置された腎臓本来の高次構造を再構築したものです。これほど複雑な臓器の構造が試験管内で作れるということは、理論的にはヒトでも同様の構造が作れることになります。

 このプロジェクトは2017年に、田中さんが大学院に入学した頃に始動しました。尿管芽の誘導法を開発して論文にまとめつつあった太口さんによる猛特訓が始まりました。発生初期のマウスを解剖してFACSし、それを培養して間質前駆細胞に誘導できているかを確認するという初心者には極めてハードルの高い実験です。しかも太口さんは数ヶ月後に留学するということで、それまでの独り立ちを目指しての短期集中特訓となりました。田中さんはこれによく耐えて成長し、その後も毎回10匹近いマウスを交配して実験を繰り返し、マウス胎仔からの誘導条件を決めてくれました。

 この際に重要な役割を果たしたのが、間質前駆細胞やその起源である後方中間中胚葉での遺伝子発現です。これが当時ほとんどわかっていなかったため、シングルセルRNA シークエンスを立ち上げました。発生研としても初めての挑戦だったのでわからないことだらけでしたが、田中さんと谷川さんの尽力でとても質の良いデータが得られました。この膨大なデータをバイオインフォーマティクスを駆使して解析する必要があるわけですが、そんなことを全くやったことがない小林さんと三池さんがみるみるうちにマスターしてくれました。本人たちも驚いていましたが、こういったドライの研究に向いた才能を元々持っていたことになります。彼らが初心者の私でもわかるくらいにデータを処理してくれました。

 これらを基にして、谷川さんがES細胞からの誘導に挑戦しました。間質前駆細胞の難しさは、それだけでは特徴的な形態をとらないことです。結局3つの前駆細胞を混ぜてみて腎臓の高次構造ができるかで判定するしかありません。しかも誘導した3つのうちどれかの調子が悪いと決してうまくいきません。谷川さんはひたすら誘導を繰り返し、田中さんや大森さん、井上さんと協力しながら誘導条件を最適化してくれました。そうしてようやくES細胞だけから構成される腎臓の高次構造が実現できたわけです。しかも谷川さんと大森さんはさらにマウスへの移植を繰り返して、どこまで成熟するかをシングルセルRNA シークエンスで調べたわけです(三池さんがここでも活躍)。

 このように、今回の論文は5年かけて全員で成し遂げた力作です。関わった全ての皆様に深く感謝いたします。ちなみにこの論文は田中さんの学位論文にもなります。Nature Communicationsのeditorから、”Wow, what a great project to finish a PhD with!” というメールをもらったことは嬉しいエピソードです。

 今後はヒトiPS細胞から間質前駆細胞を誘導します。あと2つの前駆細胞は既にできている(苦労話 Part 2&3参照)ので、3つ目を誘導してヒトで腎臓の高次構造を作ります。さらに尿管という尿の排出路を作れば、機能するヒト腎臓がすぐそこです。自分の結婚式の時に「新郎は腎臓を作ろうなどという冗談みたいなことを考えています」という祝辞をいただき、場内が笑いに包まれた時から長い年月がたちましたが、ここまで来ることができました。私がラボメンバーの結婚式で「新郎(新婦)は腎臓を作ろうとしています」と祝辞を述べても笑う人はもういません。みんなありがとう。もう一息です。

2021年4月30日金曜日

熊本地震から5年 (2021.4.14)

 

発生研HPに掲載したものです。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2016.4.14の熊本地震から5年になります。亡くなった多くの方々のご冥福をお祈りします。

皆様のおかげで発生研は復旧し、さらに飛躍を目指しています。

新しく設置した機器の固定もお忘れなく(下記マニュアル参照)。

 

http://www.imeg.kumamoto-u.ac.jp/saigai/

火災対応

地震対応

研究機器固定法

 

コロナ対策を守りつつ、地震や火災への注意も怠らないようお願いします。特に火災は地震より高い頻度で起き、地震の際に火災が発生することも多々あります。非常時には周りに誰もいないかもしれません。その場合、あなたに全てがかかっています。消防/救急への連絡、初期消火、救護、館内放送で避難周知、などの対応をお願いします (地震の時には電源や都市ガス・炭酸ガスの閉鎖も)。並行してメールアドレス <all-imeg(at)kmm.kumamoto-u.ac.jp> を使って全員に(建物外にいるメンバーにも)状況を知らせてください。

このアドレスは、熊本地震の際に迅速な情報共有ができなかった反省から作られたもので、発生研の方は誰でも全員に向けて発信できます(センター事務にも届きます)。リストはリゾンラボが常に更新しています。平時にも気軽にご利用ください。

 

参考:熊本地震関連トピックス

http://www.imeg.kumamoto-u.ac.jp/saigai/


Five years since Kumamoto Earthquakes (2021.4.14)

 

It has been five years since the Kumamoto Earthquakes in 2016.

We thank you all for your great contributions to the restoration of our institute.

 

Always be prepared for earthquakes and/or fires, in addition to COVID-19. Please read the manuals in the following URL.

http://www.imeg.kumamoto-u.ac.jp/en/saigai/

Fire

Earthquake

 

In an emergency, you may find no one around you. If so, you should take care of everything, including emergency calls, initial fire fighting, rescue of the injured, announcement for the remaining members the building, (and closure of the gas/electricity in the case of earthquakes). Also mail to the all-imeg address <all-imeg(at)kmm.kumamoto-u.ac.jp>, so that you can share the information with all the IMEG members.

2020年3月31日火曜日

所長退任のご挨拶

日頃より熊本大学発生医学研究所へのご支援ありがとうございます。お陰様で本研究所は着実に前進しています。2016年以降3人の独立准教授が着任し、研究室が増えました。今年2月にはその一人である石黒啓一郎准教授のグループが、体細胞分裂から減数分裂へのスイッチを制御する遺伝子を発見して論文を発表しました (Developmental Cell, 2020)。発生学の基盤となる業績であり、不妊の原因に関わる遺伝子として新聞等でも報道されました。現在、さらに研究室を2つ増やすべく、全国公募を行っています。新しい才能が研究所に加わることを楽しみにしています。今年は発生研設立20周年でもあります。1939年に設置された体質医学研究所を原点とし、複数回の再編を経て2000年に発生医学研究センターとして設立されました(2009年に発生医学研究所に改組)。今後も発生医学の拠点として活動していく所存です。

さて私事ではありますが、本年3月末日をもって2期4年の任期を満了し、所長を退任することとなりました。着任直後 (2016年4月14日) の熊本地震の際には、全国の皆様から多大なご支援をいただきました。当時の激励メールや寄附名簿をみるたびに思いを新たにします。ここまで発生研が回復できたのも、また自分がここまで頑張れたのも、皆様のご支援のおかげです。本当にありがとうございました。一方で、コロナウイルスの感染が拡大しており、地震に始まりコロナで終わる所長ということで、被害を最小限に抑えるべく緊張した日々が続いています。

この4年間には所長業務の傍、腎臓の高次構造の試験管内再構築、患者由来のiPS細胞による遺伝性腎臓病の再現、腎臓前駆細胞の増幅法などの成果を論文発表し、メディアでも報道していただきました。しかし機能する完全な腎臓を作るには解決しなければならないことがまだ多くあります。4月からは副所長として新所長をサポートしつつ、研究により多くの時間を割くつもりです。世界の誰も見たことがない、自分にしか見えない景色が時々見えるのが研究の醍醐味ですし、未来の医療にも繋がります。さらに挑戦を重ねて、世界と自分自身の想像を超えていきたいと思っています。今後も発生医学研究所をよろしくお願いいたします。

2020年3月
熊本大学 発生医学研究所
西中村 隆一

2019年4月16日火曜日

熊本地震から3年 2019.4.16

発生研の全メンバーに送ったメールです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2016.4.14 & 4.16の熊本地震から3年が経ちました。大変な経験をしましたが、おかげさまで発生研は完全に復旧し、未来のサイエンスに向けて進んでいます。皆様のご尽力に深く感謝いたします。

もちろん油断は禁物なので、新たに購入した機器の固定などお忘れなく。このアドレス は発生研全員 (センター事務含む)にメールを送ることができるので、緊急時に使ってください。通常時でも全員に連絡したい時に使って結構です(普段使ってないといざという時に動かないので)。

地震で亡くなられた270名以上の方々のご冥福を祈りましょう。

西中村 隆一


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

まだ日奈久断層にひずみが残っているという九大の報告もありますので、機器の固定はしっかりお願いします。発生研HPに固定法の具体例があります。
http://www.imeg.kumamoto-u.ac.jp/kotei2016oct/

地震、火災の際に、所長や教授がいつもいるわけではありません。その場に居合わせたメンバーで全所内の怪我人や火事、電源、都市ガスと炭酸ガスへの対応をお願いします。その上で、このアドレスを使って全員に情報を共有ください。具体的手順は下記サイトにあります。被害がないという報告もありがたいです。
http://www.imeg.kumamoto-u.ac.jp/saigai/

災害が起こって停電するとWEB情報は見えません。ですから災害対応マニュアルは今日printoutして、よく使うカバンに入れておいて下さい(私は東北地震以来そうしていて熊本地震のときに役立ちました)。

黒髪キャンパスのメールサーバーが損傷あるいは停電すると、このアドレスも含めて熊大のメールすべてが動かなくなります。しかし地震当時、gmailやLINEは動きました。backupの連絡網をラボ毎に構築ください。

西中村

2019年4月9日火曜日

令和を迎えるにあたって (2019.4.1)

(発生研HPに新年度の所長挨拶として掲載したものです)

2019年度が始まりました。新しい元号が発表されたので、5月からは令和初年度と呼ばれるのでしょうか。

思い起こせば、昭和が終わって平成が始まった日は大雪でした。私は研修医2年目で、栃木の病院にずっと泊まり込んでいました。あれから30年、まさか医者をやめて熊本で研究をしているとは予想もしませんでした。まだ医者の訓練中だった人間が、腎臓内科医として働いたあと、がむしゃらに実験して研究の面白さを知り、ラボを持ち、仲間に恵まれて腎臓がかなり作れるところまでこぎつけました。この30年の間に、PCRやDNA抽出キットが一般化し、ES細胞を使ってノックアウトマウスが作られ、ヒトゲノムが解読され、iPS細胞が樹立され、臓器の遺伝子発現が1細胞レベルでわかるようになりました。e-mailとインターネットが出現し、論文の電子化が進み、スマホでどこからでも大量の情報にアクセ スできるようになりました。驚くべき進歩です。

これからの30年でどんな進歩が起きるのでしょうか。おそらく想像さえできないことが実現されるのでしょう。高度に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない (Any sufficiently advanced technology is indistinguishable from magic)、とアーサー・C・クラークは言っています。不可能を可能にする、それを実現するのは若いあなた自身です。自分の想像を超える可能性を試してください。そして自分が一生かけて解きたいことを見つけてください。先輩として喜んでお手伝いします。発生研の研究環境はコンパクトかつ充実しています。考えつく大抵のことはできますし、さらにやりたいことがでてきたら手を尽くして実現できるようにしています。そうやってみんなで成長してきましたし、それが発生研の原動力となっています。世界の誰も見たことがない、自分にしか見えない景色を見てください。もちろん私も完璧な腎臓作製に向けてさらに挑戦し、自分自身と世界の想像を超えていきたいと思っています。

発生研の現在及び未来のメンバーの奮闘と幸運を祈ります。我々を応援してくださっている方々には、これからもご支援・ご指導のほどよろしくお願いいたします。

熊本大学発生医学研究所 所長  西中村 隆一

2019年1月16日水曜日

Let's start with calamari

昨年(2018年)4月に恩師である新井賢一先生が亡くなられました。追悼文集の一部です。


Let’s start with calamari
             熊本大学発生医学研究所 教授・所長 西中村 隆一
       Ryuichi Nishinakamura, Kumamoto University, Japan                 

 初めて東大医科研の新井賢一先生を訪ねたのは1990年末でした。真冬にも関わらず半袖短パンの人物が「今日は暑いですな」と言いながら現れて、3時間しゃべり続け、それが終わる頃には私は新井研に入ることになっていました。
 新井先生との接点が増えたのは、医科研にいるときよりも、むしろ1993年から2年間DNAX研究所に留学させてもらった時でした。新井先生はDNAXに来るたびに我々若手をSundanceというステーキレストランに連れ出し、散々ご馳走してくれました。最初は必ず ”Let’s start with calamari.”  イカリングのフライです。それからShrimp cocktailなど色々頼んで結構お腹が膨れてきたところで、Prime rib steak。私が普通サイズを注文していると、横から「一番大きいやつにしてくれ」と勝手に変えてしまい、「若いんだからこれくらい食べんといかん」。サイエンスの話はほとんどした記憶がなく、楽しい日々でした。
  帰国して、東大医科研のAMGEN寄付講座(新井先生が設立に尽力)に加入。サイトカインから離れて腎臓の研究を始めました。ノックアウトマウスで腎臓発生を解き明かして、それをもとに腎臓を作ってみたいと伝えると、「それは面白い、ノックアウトではなくて作るというのがよい。是非やれ」と励ましてもらいました。しかし、カエルとマウスを使って腎臓発生に関わる遺伝子を3年間必死に探したものの、全くうまくいかない。あきらめてサイトカイン研究に戻ろうかと思って相談すると、「おまえは腎臓の発生をやるんじゃなかったのか。他人の芝生が青いからといってそっちにひょろひょろいくのか。」と叱られました。「他人のフェロモンに引き寄せられてよそへ行ってしまうのではなくて、ここできちんとデータを出して、自分のフェロモンを出して、他人を自分のところに引き寄せられるようになれ。お前はそうなれるはずだ。」この最後の「お前はそうなれるはずだ」というところが新井先生の人たらしなところで、そんな無茶なと思いながらまた踏ん張ってしまうんですよね。その甲斐あって、新しい遺伝子がとれて腎臓のないマウスができ、その知見をもとに、腎臓組織をヒトiPS細胞から作ることができるようになってきました。ここまで20年以上かかりましたが、もう少し頑張れば腎臓を丸ごと作れそうな気がしています。今の自分があるのはあの時の新井先生の一喝のおかげです。先生にはとてもかないませんが、自分も少しはフェロモンを出せているでしょうか。もう一度あの頃に戻ってcalamariとprime rib steakを一緒に食べながら、そういう話をしてみたいです。Let’s start with calamari.