2026年4月1日水曜日

谷川俊祐さん 祝 教授栄転 2026.4.1

発生研腎臓発生分野講師の谷川俊祐さんが、4.1付で山口大学細胞デザイン医科学研究所の教授として転出されました。おめでとうございます! 去る3.16に開催された転出セミナーの際の私の祝辞の一部を掲載します。


谷川さんと初めて会ったのは2011年2月、彼がアメリカ留学中に鹿児島に一時帰省しているときでした。家族思いの好青年で、アメリカでしっかり成果を出して私のラボに採用されるくらいに成長したいと言ってくれました。 私もこの人がうちのラボに来てくれたらよいなあと思いました。しかし彼を雇用するための予算を持っていませんでした。それからしばらくして新しい大学院プログラムの公募がありました。それに熊大発生研として応募して全国の厳しい競争を勝ち抜き、運よく採択されたら特任助教を公募し、そこに谷川さんに応募してもらってこれまた競争を勝ち抜いてもらう、というかなり確率の低い三段階のプランを考えました。これが実現したのがHIGO programであり、谷川さんは2年後に特任助教として熊大に着任して、企業 internshipの引率をしっかりやって、メンターとして他のラボの学生を指導し、多くの学生から慕われました。その後、助教、講師と順調に昇進し、さらに教授として栄転されることは、とてもめでたく、嬉しいことです。新天地での一層のご活躍を祈念しています。
I first met Shunsuke around 15 years ago, when he was back in Kagoshima for a short visit while studying in the US. He was a kindhearted young person who cared deeply for his family. I hoped he would succeed in the US and join my lab later. This was one of the reasons why I started the HIGO program.

谷川さんはとても優しく誠実で、細かい気配りができ、お願いしたことは喜んでやってくれる。私はこんな好人物に出会ったことがありません。実験においても、多くの可能性の中から真実を掘り当てていく嗅覚とそれを支える膨大な仕事量は卓越しています。私のラボがうまくいったのは谷川さんのおかげです。谷川さんと一緒にやれて、とても幸せな13年間でした。本当にありがとうございます。
私は彼の優しさと才能を信じ続けてきました。私は谷川さんに「独立へのルートは一本道ではなく、多様な道筋がある。あなたは私心なく人を助けることができる、それによって人から助けられる。それが谷川さんの最大の長所だ、それを活かして戦え、せっかくの長所を捨てるな」と言い続けました。そして谷川さんは、多くの論文を出し、多くの研究費を獲得して、教授として独立することができました。自分のことを一番に考える従来のPIとは違って、人を助けて人に助けられる新しいタイプのPIが誕生したのだと思っています。山口大学は彼の最大の長所を評価してくれたわけで、彼の独立を心から祝福します。
Shunsuke is incredibly kind and sincere. He is always happy to help others. I’ve never met such a wonderful person. In the experiments, his ability to uncover the truth from numerous possibilities, based on tremendous hard work, is truly exceptional.
I kept telling him, “The path to independence is not a single, straight road. There are many different routes. You have the ability to selflessly help others, and in doing so, you’ll receive help in return. That is your greatest strength. Use it to your advantage. Don’t throw away such a valuable asset.” Shunsuke then published numerous papers, secured substantial research funding, and finally established himself as a professor. Congratulations!
谷川さん、本当におめでとう!

転出セミナーのURL https://www.imeg.kumamoto-u.ac.jp/seminar555/ 


2026年3月30日月曜日

桜峰小学校 閉校 2026.3.31

 私が通った鹿児島県・桜島の桜峰小学校が2026.3.31で閉校します。私が住んでいた頃の桜島は農業も観光も栄えており、西桜島村が桜島町になった1973年には全島挙げてお祝いしました。ほぼ毎日噴火する火山の麓で駆け回って遊んだ、私の故郷です。桜峰小学校も当時は360名と大勢いたのですが、過疎化が進み、ついに桜島全島の小中学校が閉校して、一つに合併されます(桜島学校)。寂しい限りです。

去る2.14に閉校記念式典が開催されたので、急遽思い立って参加してきました。私が児童会長として卒業記念に植えたクロガネモチが5mを越す大木になっていました。卒業以来50年ぶりに校舎に入って懐かしい教室を見た後、式典で皆さんと一緒に校歌を歌いました。「雲に聳ゆる桜島、高きを己が心とし、、」。閉校してもそのスピリットと思い出は一生心に残り続けます。

思えば、ここが私の原点でした。あの時から長い時間をかけて、医者になり、研究者になり、腎臓を作り、とここまできました。自分はここから始まった、我ながらよく頑張った、でももっとやるぞ、と思いを新たにしました。

さらば桜峰小学校!






2025年4月17日木曜日

日中笹川医学奨学金認定式 挨拶 2025.4.16

 Yuhao Wangさんが第46期日中笹川医学奨学金の対象者に選ばれ、その認定式に出席しました(ポスドクは全国で7名)。その時の挨拶です。


Yuhao Wangさん、そして皆様
本日はおめでとうございます。あなたにとってこの2年間はとても貴重です。是非有意義な時間を過ごしてください。
私の研究室では複雑な構造を持つヒト腎臓を試験管内で作れるようになってきました。しかしまだ尿を流せていません。そこで、Yuhao Wang さんには、尿管を作り、それと腎臓を繋ぎ、さらに移植してホストの膀胱と繋いで、尿が流れる機能的な腎臓を作ってもらいたいと思っています。もちろんこれは挑戦的なプロジェクトであり、簡単にできることではありません。それに向けて一歩ずつ着実に進めば良いです。私と一緒に試行錯誤しましょう。
この2年間に限らず人生において、焦ったり迷ったりすることもあるでしょう。その時は私たちは患者さんのため、あるいは人類のためにサイエンスをやっていることを思い出してください。迷ったときは、サイエンスのためにベストなことは何かで判断してください。サイエンスを自分の出世や生き残るために決して使わないでいただきたい。サイエンスより自分のことを優先していないか、よく考えてください。
最後にもう一つ。ちょうど9年前の今日、熊本地震の本震が起き、私たちの研究所は大きな被害を受けました。今頃の時間(16:00)は立ち入り禁止にした建物に所長として一人残って、対策を必死に考えながら多くの指示のメールを出していました。その時に実感したのは、刻一刻変わっていく状況を研究所全員に伝えるのが難しかったことです。さらに情報のほとんどが日本語で、留学生に届くのに時間がかかりました。そこで私たちの研究所では、すべての所員(教員、ポスドク、技術職員、事務職員, 学生まで全員)がすべての所員にメールできる体制を作っており、かつ日本語と英語を併用するようにしています。日本では地震が頻繁に起きますので、皆さんのところでもそうされるのをお勧めします。
それでは改めて採択おめでとうございます。充実した研究生活をお送りください。

熊本地震から9年 2025.4.14

発生研全員に送ったメールです。

皆様 

 

2016.4.14の熊本地震から9年になります。
この機会に地震・火事に対するマニュアルを復習し、機器の固定をお願いします。

 

非常時にあなたが発生研の建物内にいた場合、あなたに全てがかかっています。初期消火、救護、消防/救急への連絡、館内放送での退去呼びかけ、などの対応をお願いします。 そして、このアドレス     を使って全員に(建物外にいるメンバーにも)状況を知らせてください。
このアドレスは、熊本地震の際に刻一刻と変わっていく状況を迅速に共有できなかった反省から作られたもので、発生研の方は誰でも全員に向けて発信できます(センター事務にも届きます)。あなたのアドレスも登録されていますので、平時にも気軽にご利用ください(発生研セミナーのお知らせにも使われています)。それが非常時に生きます。

しかしこのアドレスは、熊大黒髪キャンパスのサーバーが損傷や停電で停止すると全く使えません。その場合には研究支援会議のメンバー間で連絡を取れるようにしてあります(アクセス権はメンバー限定)。ラボ内はLine, Slack, Googleなど熊大のサーバーに頼らない連絡方法があると思いますので、研究支援会議のメンバーに連絡して、ラボ及び全所で情報を共有ください。

 

熊本地震直後の状況は下記から。

 

 西中村

 

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Dear all,

 

It has been nine years since the Kumamoto Earthquakes in 2016. 

 

Always be prepared for earthquakes and/or fires. Please read the manuals in the following URL. 

 

If you are in the IMEG building at the time of an emergency, you should take care of everything, including initial fire fighting, rescue of the injured, emergency calls, and evacuation announcement for the remaining members in the building. Also mail to this address, so that you can share the information with all the IMEG members.
This mail address was created because we could not share the ever-changing situation when Kumamoto earthquakes occurred. You can send your message to all IMEG members (including the administration office). So please feel free to use it even in normal times (it will be useful in emergencies).

However, this address will not work if the server at the Kurokami campus of Kumamoto University is damaged or stopped due to a power failure. In such a case, we will share information through the members of the Research Support Committee (access rights limited to members only). Please contact the committee members to share information with other members in the lab and institute, as you should have communication methods in the labs such as Line, Slack, Google, etc. that do not rely on the Kumamoto University server.

 

Please see below to learn the situation just after the earthquakes.

Ryuichi Nishinakamura

2024年9月8日日曜日

浅島誠先生 傘寿の祝賀会 2024.9.7

 浅島誠先生の傘寿の祝賀会が東大駒場で開催されました。久しぶりに浅島先生や懐かしい面々と会えて楽しい時間を過ごしました。その会での祝辞です。

浅島先生、傘寿おめでとうございます。
私が先生と共同研究を始めたのは、1996年に大学院を卒業して東大医科研の助教になった直後なので、もう28年もお世話になっております。腎臓を作りたいと言って勝手に押しかけてアニマルキャップを集め、Sall1を見つけてKOマウスを作り、さらにヒト腎臓オルガノイドを作ってきました。私がここまでやってこれたのは浅島先生のおかげです。改めて深く感謝いたします。
私は浅島先生を発生学会の長嶋茂雄と密かに呼んでいます。なんと言っても明るく励ましてくれる。カエルどんどん使ってください としか言わず、細かい批判や指摘はしない。いい意味で大雑把。どんなデータにも本気で興奮してくれて、すぐに"Natureに出してみるだか"。自分がイマイチと思うデータでも先生にそう言ってもらうと、最終的な結果がどうあれ元気が出ますよね。
それに、多くの学生さんを送っていただきました。大学院を卒業したばかりで、かつ浅島研に所属もしていない私に優秀な学生をどんどん送ってくれる。後から振り返ると、私を支援してくれていたわけなのですが、そういったことは決しておっしゃらない。むしろ頭を下げて、 "もしもならば"指導してもらえないか、と頼んでくださる。お人柄ですよね。
「思ったより一人多く入学しちゃったので引き受けてもらえないか?」
「修士の入学試験に落ちてしまった学生がいる。来年は必ず受かるから、それまで教えてくれないか(気に入ったらそれ以降も)」
「マウスを勉強したがっているが、自分はカエルしか教えられないから是非西中村さんに頼みたい」
そうやって頼んでお願いする形を取りながら、私をサポートして下さったわけです。佐藤さん、長船さん、高里さんなど、今から思うとすごいメンバーでした。
それに当時の浅島研も若かった。福井さんが助教、有泉さんがいて、高橋君と横田さんが大学院生の最年長。その下に岡林さん、二宮さん、玉井さん、黒田さん、作本さん。魚地さんと早田さんはまだ修士でしたね。皆さん立派になられて素晴らしいです。
結局カエルを始めてから18年かけてヒト腎臓オルガノイド作成に成功したわけですが、そのときに浅島先生から電話をいただきました。”私はアクチビンを見つけるのに18年かかった。西中村さんも18年かけて腎臓が作れてよかったね。18年かかったのが良い”と言ってもらえました。浅島先生に少し近づけたような気がして、すごく嬉しかったです。
あれから既に10年が過ぎて、世の中のオルガノイド研究は物凄い勢いで進んでおり、長船さんも高里さんも頑張っています。私も、誰も見たことのない景色をさらに見つけていきたいと思っています。ほんの少しずつですが毎日細胞培養もしているし、たまにはマウスに注射も打ちます。
浅島先生もいつまでもお元気でご活躍ください。本日は誠におめでとうございます。


2022年7月27日水曜日

桜島の噴火

今回のニュース(噴火による避難指示:レベル5)は思わず長いこと見てました。

桜島は私の故郷で、小学校卒業まで住んでいました。今回避難対象になっている南東部とは反対側です。桜島の北西側は観光やフェリー、農産物(みかんや桜島大根など)で収益を上げている豊かな村でした(溶岩が多い南東側は1950年に鹿児島市に編入されていたが、こちらは独立を保っていた)。夏休みは毎日、家から5分の海で泳いでいたし、ハネムーン客も大勢泳ぎに来ていました。好調な財政を反映してか、小中学校の校舎も立派でした。私が10才の時に西桜島村から桜島町に昇格、町中でお祝いしました(新しいフェリーも就航)。

噴火はほぼ毎日で慣れっこでしたが、農産物が全滅して村内運動会が中止になったことも。大正3年の大噴火の記念日 (1月12日) には全島脱出を想定した避難訓練が毎年ありました。当時は大噴火の経験者が存命で、噴火しないという測候所の予測を信じて避難しなかった人が犠牲になったという話を聞いた記憶があります。

桜島町は2004年ついに鹿児島市に編入。私が通った当時360名いた小学校も今では20名ほどの複式学級だそうです。でも頑張っている様子がHPから伝わってきて、心の中で応援しています。

2022年3月2日水曜日

私の苦労話 Part 4: 完全にES細胞由来の腎臓高次構造を構築 (2022.2.1)

 2022.2.1にNat Communに論文を発表し、その裏話を発生研HPに掲載しました。

http://www.imeg.kumamoto-u.ac.jp/bunya_top/kidney_development/#1

遅くなりましたが、その転載です。

西中村教授の苦労話 Part 4: 完全にES細胞由来の腎臓高次構造を構築 (2022.2.1)

 

 2022年2月1日 Nature Communications誌に論文を発表しました。腎臓はネフロン前駆細胞、尿管芽、間質前駆細胞という3つの前駆細胞から形成されます。私たちは2014年にネフロン前駆細胞の、2017年に尿管芽の誘導法を報告してきました が、今回は最後のピースである間質前駆細胞を誘導したという論文です。2017年の論文では、間質前駆細胞が誘導できていなかったのでマウス胎仔由来の間質前駆細胞で代用していました。今回は、それをマウスES細胞から誘導する方法を開発し、同じくES細胞から誘導した残り二つの前駆細胞(ネフロン前駆細胞及び尿管芽)と組み合わせることで、ES細胞のみから、多数に分岐した尿管芽の周囲にネフロンが配置された腎臓本来の高次構造を再構築したものです。これほど複雑な臓器の構造が試験管内で作れるということは、理論的にはヒトでも同様の構造が作れることになります。

 このプロジェクトは2017年に、田中さんが大学院に入学した頃に始動しました。尿管芽の誘導法を開発して論文にまとめつつあった太口さんによる猛特訓が始まりました。発生初期のマウスを解剖してFACSし、それを培養して間質前駆細胞に誘導できているかを確認するという初心者には極めてハードルの高い実験です。しかも太口さんは数ヶ月後に留学するということで、それまでの独り立ちを目指しての短期集中特訓となりました。田中さんはこれによく耐えて成長し、その後も毎回10匹近いマウスを交配して実験を繰り返し、マウス胎仔からの誘導条件を決めてくれました。

 この際に重要な役割を果たしたのが、間質前駆細胞やその起源である後方中間中胚葉での遺伝子発現です。これが当時ほとんどわかっていなかったため、シングルセルRNA シークエンスを立ち上げました。発生研としても初めての挑戦だったのでわからないことだらけでしたが、田中さんと谷川さんの尽力でとても質の良いデータが得られました。この膨大なデータをバイオインフォーマティクスを駆使して解析する必要があるわけですが、そんなことを全くやったことがない小林さんと三池さんがみるみるうちにマスターしてくれました。本人たちも驚いていましたが、こういったドライの研究に向いた才能を元々持っていたことになります。彼らが初心者の私でもわかるくらいにデータを処理してくれました。

 これらを基にして、谷川さんがES細胞からの誘導に挑戦しました。間質前駆細胞の難しさは、それだけでは特徴的な形態をとらないことです。結局3つの前駆細胞を混ぜてみて腎臓の高次構造ができるかで判定するしかありません。しかも誘導した3つのうちどれかの調子が悪いと決してうまくいきません。谷川さんはひたすら誘導を繰り返し、田中さんや大森さん、井上さんと協力しながら誘導条件を最適化してくれました。そうしてようやくES細胞だけから構成される腎臓の高次構造が実現できたわけです。しかも谷川さんと大森さんはさらにマウスへの移植を繰り返して、どこまで成熟するかをシングルセルRNA シークエンスで調べたわけです(三池さんがここでも活躍)。

 このように、今回の論文は5年かけて全員で成し遂げた力作です。関わった全ての皆様に深く感謝いたします。ちなみにこの論文は田中さんの学位論文にもなります。Nature Communicationsのeditorから、”Wow, what a great project to finish a PhD with!” というメールをもらったことは嬉しいエピソードです。

 今後はヒトiPS細胞から間質前駆細胞を誘導します。あと2つの前駆細胞は既にできている(苦労話 Part 2&3参照)ので、3つ目を誘導してヒトで腎臓の高次構造を作ります。さらに尿管という尿の排出路を作れば、機能するヒト腎臓がすぐそこです。自分の結婚式の時に「新郎は腎臓を作ろうなどという冗談みたいなことを考えています」という祝辞をいただき、場内が笑いに包まれた時から長い年月がたちましたが、ここまで来ることができました。私がラボメンバーの結婚式で「新郎(新婦)は腎臓を作ろうとしています」と祝辞を述べても笑う人はもういません。みんなありがとう。もう一息です。