先日、分子生物学会において池上彰さんと学会員との討論会が行われました。池上さんは非常に頭の回転が早く、ユーモアがあって、さすがだなと思いました。その中で、心に残ったことがあります。正確ではありませんが「不正の責任が論文の責任著者にあるのは間違いない。しかし税金を使って研究をしそれで社会の中で組織を形成しているからには、組織及びその長が管理責任を問われるのは社会の常識ではないか」という趣旨で、尤もだと思いました。もしかしたら、研究者ってお子ちゃまですね と言いたかったのかもしれません。
我々研究者は、科学の進展に追いつくのには熱心ですが、倫理の進歩やその教育についてはそうでなかったのではないでしょうか。また世代間でコピペ等への感覚が大きく異なることを、指導者の世代はあまり認識していません。大学院生、ポスドクがここまで増えた現状では、倫理の言語化•システム作りが必要でしょう。そしてそれは単なるノウハウの伝授ではなく、未知の状況でも自分で判断でき、生涯にわたって高い倫理規範を維持できるように、自分は何のために研究をするのかを根源から問うものでなければなりません。研究は一人でやるのが基本なので、バカ正直といってもよいほど極めて高い倫理感が求められます。そのためにCITIなどのe-learningに加えて、やはりPIが折に触れて自分の哲学を語ることが大切でしょう。私は、「科学は、自分の生存や出世のための手段ではなく、目的なのだ」と言っていますが、以下のような話も学生にしています:研究不正の話は自分と無関係と思っているかもしれないが、将来こういう場面に直面したらどうするか?revisionでdataを一つだけ削除すれば有意な差がでて、論文がいい雑誌に受かり自分も生き残れる。しかし論文が通らなければ職を失い研究をやめなければならない。それでも真実を通せる人になってほしい。そもそもそういう状況に追い込まれたこと自体が自分の実力不足だと悟るべき。 「自分ではなく、サイエンスを愛してください。」
2014年12月16日火曜日
2014年4月23日水曜日
あなたのcentral questionは何ですか?
国際科学技術財団は日本国際賞を主催していますが、同時に若手研究者(35才以下)への研究助成も行っています。今回は、私が選考委員長を務めました。私自身は力不足でしたが、委員の先生方のご支援により、素晴らしい10名の若手を選ぶことができ、2014.4.22に贈呈式が行われました。以下は、私が若い方々に送ったお祝いの言葉です。
「生命科学」の分野で研究助成の選考をさせていただきました西中村です。今回、研究助成に採択された皆様に、選考委員を代表して、講評とお祝いを述べさせていただきます。
「生命科学」は大変幅広い領域ですが、次年度に「医学•薬学」の募集がある状況を踏まえ、本年度はできるだけ基礎的な研究を選ぶ方針としました。それでも研究領域は広範囲に及ぶため、選考委員はMD, PhDのバランスを考慮し、扱う動物種もハエからヒトまで、幅広い専門分野の方々にお願いしました。すべての委員がすべての申請資料を事前評価したのち、東京に集まって合議を行いました。但し平均点だけで一律に評価することはせず、申請一件ずつに対して皆で意見を出し合うことによって、ご本人の実力による独創的な研究を拾い上げる努力をしました。その結果、優れた論文をお持ちでも選に漏れた方も大勢おられます。皆様は、数多くの応募の中から私たち委員がこれはと信じて選んだ方々です。どうか自信をもって研究に邁進ください。
昨今、生命科学領域では研究不正の報道が相次いでいますが、これはひとごとではありません。この機会に、皆様も何のために自分がサイエンスをするのかを考えていただきたい。私たちは基本的に自分の興味に基づいて研究をしますが、最終的には人類の知の発展のために貢献しています。ここで不正をすればその発展を阻害してしまいます。もっと平たくいうと、世のため人のために正しいことをやりましょう。決して自分の出世や研究者としての生存のためにサイエンスを手段として使わないでいただきたい。サイエンスは目的であって手段ではない。常に素晴らしい結果がでなくてもよいです。正直な結果をもとに誠実にサイエンスを進めてください。あなたのcentral questionは何ですか?あなたが一生かけて解きたいことは何ですか?それに向かって愚直にまっすぐに進んでください。そして何よりも、自分ではなくサイエンスを愛してください。
寺田寅彦は言っています。
「科学者になるには自然を恋人としなければならない。自然はやはりその恋人にのみ真心を打ち明けるものである」
皆様の研究が大きく発展されることを心から願っております。本日は誠におめでとうございます。
選考委員長 西中村 隆一
(2014年4月22日 2014 年研究助成金贈呈式にて)
付記: central questionというフレーズは鍋島陽一先生がよく使われるのですが、これを是非伝えたくて無断借用させていただきました。この場を借りてお詫びします。
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